もさおのためになる話

もさおが、ためになる話をします。

【人の行動を読み解く】「行動経済学」

今回は、行動経済学という本について紹介します。

従来の経済学では、人の行動を合理性という観点だけを要素にして定義されていましたが、実際には必ずしも合理的な行動を取らないのが人間です。

 

行動経済学とは、実際に人はどのように行動するのかという観点に着目した経済学です。

 

 

1.経済学の矛盾

【合理性の限界】

経済学において、人は経済人という神のような、超合理的な人物として想定されています。

経済人とは、完全に合理的であり、自己利益のみを追求する人物です。

つまり、すべての選択肢の中から、最も効用の高い選択をし続けるということです。

しかし、ありとあらゆる情報を得ることも、それの効用をすべて分析することも現実的ではありません。

 

高性能なコンピューターでも、最も効用の高い商品の組み合わせを判定するのに、商品数が30の場合約18分、商品数が40の場合約13日、商品数が50の場合約36年の計算時間を要すると言われています。

 

【経済学擁護論】

従来の経済人論を擁護する主張もあります。

その一つが「主体が合理的でなくとも、合理的であるとみなすことで、行為を予測することができる」という考えです。

 

人間は完全合理的ではありませんが、最終的には完全合理的な行動を選択しているのだという主張です。

しかし、現実には、無償献血無人野菜売り場などのように、合理性では説明しきれない行為がいくらでも存在しています。

この擁護論は正当とは言えません。

 

また、「他に適当な理論が見当たらないため、暫定的に合理的性理論の立場を取るべきである」という主張もあります。

確かに、現時点での行動経済学に、標準的な経済学を覆すほどの理論体系は備えていませんが、今後多くの経済学者が資源を投下することで、この状況は覆ると考えられます。

 

そして、「経済学は規範理論であって、実際に人がどう行動するかではなく、どう行動すべきかを説明しているものである」という主張もあります。

 

しかし、人は必ずしも合理的かつ私益追求を目的として生きるべきとは限りません。

そもそも、人はどう行動すべきかを説明するためには、もともとがどうであるかを知っておく必要があるのです。

 

2.行動経済学とは

 

行動経済学とは、人は実際にどう行動するのか、なぜそうするのか、その結果何が生じるのかということを体系的に究明することを目指す経済学です。

 

行動経済学は、人の完全合理性を否定していますが、合理性そのものを否定しているわけではありません。

人の合理性には限界があるという限定合理性の立場をとっているのです。

合理性以外にも、感情によって人は行動するものです。

 

感情の研究は心理学の分野ですが、もともと経済学と心理学はつながっていたのです。

しかし、現在の標準的な経済学が成立するに連れ、この2つが切り離されて考えられるようになりました。

 

行動経済学の歴史】

1956年9月11日に認知心理学が誕生しました。

認知心理学は、従来の心理学と異なり、人間は刺激に反応して動くのではなく、情報を処理して行動するものであるとみなしています。

 

行動経済学の誕生は、1976年のプロスペクト理論の提唱が始まりです。

経済学に、認知心理学の考えを取り入れたのが行動経済学なのです。

そして、現時点の行動経済学は、経済学との相違点を説明する証拠収集段階から、体系化や理論化、政策提言の段階に進んでいると言えます。

 

3.モンティホールジレンマ

モンティホールジレンマという確率の問題があります。

ドアが3つあり、どれかひとつが当たりです。

 

最初にひとつのドアを選択したところで、残り2つのうち片方のドアが開けられて、それが外れであることが分かるとします。

このとき、再度ドアを選択する権利が与えられた場合、最初に選んだドアか、残りひとつのドアどちらを選択するのが正解でしょうか。

 

例えば、ABCのうち、Aのドアを選択した後、Bのドアが外れであることがわかります。

そのとき、最初に選んだAを選択する場合と、Cに変更する場合のどちらが正解でしょうか。

 

多くの人は、最初に選んだドアを選択します。

少なくとも、変えても変えなくても確率は変わらないように思えます。

どちらのドアも正解率は1/2なのではないでしょうか。

しかし、実際には最初に選んだドアの正解率は1/3で、残りのドアの正解率は2/3なのです。

 

このルールでは、最初に外れを選んでいればドアを選択し直すことで正解を開けます。

最初に外れを選ぶ確率は2/3なので、最初に選んだドアが正解である1/3より、確率が2倍になるのです。

この問題には多くの著名な数学教授ですらも間違えました。

 

印象で物事を判断すると、時に誤った選択をしてしまうのです。

大事な選択は論理的に検討すべきです。

サッカーのペナルティキックでは、キーパーの正面に蹴るのが最も成功率が高いのです。

 

しかし、私が学生時代にPKを正面に蹴ったところ、運悪く止められた結果、チームメイトにリンチされ殺害されました。

 

4.事前確率の無視

信頼性が99%の検査で陽性と判定された場合、感染症に感染した確率は99%となるでしょうか。

必ずしもそうとは限りません。

 

たとえば、この感染症の感染率が0.01%であれば、100万人のうち100人の感染者が出ることになります。

この感染率のことを事前確率といいます。

 

信頼度99%の検査では100万人のうち、実際の感染者である99名と、本当は陰性である9,999人が陽性と判定されることになります。

つまり、陽性と判定されるのは10,098人であり、実際の感染者は99名なので、陽性と判定された人の感染率は約0.98%となります。

 

このように、事前確率を無視することで誤った回答を導いてしまうことがあるのです。

 

5.思考のステップ

1から100までの数字から、任意の整数をひとつ選択します。

選択した値が、グループの全員が選択した平均の値の2/3に最も近かった者を勝者とします。

このゲームで勝つには、どの整数を選択するのが正解でしょうか。

 

整数をランダムに選択した場合、平均値は50となるので、2/3の33が正解となります。

しかし、他の参加者もこれを予測すると平均値は33となるので、2/3の22が正解となります。

この推論を繰り返すと、最終的に正解は1となります。

 

しかし、1という答えにたどり着くには、8つのステップを踏む必要があり、他の参加者がどこまで推測するのか予測する必要があります。

実験の結果、実際の平均値は、25~40程度でした。

 

心理バトル系の漫画では、相手の裏を読んだり、裏の裏を読んだりするシーンがよく登場します。

相手がどこまで読んでくるかという推測が難しいのです。

 

6.最終提案ゲーム

最終提案ゲームと呼ばれる実験があります。

1,000円を自分と相手で、自分の好きな配分で分け合うことができます。

ただし、相手には拒否権があり、拒否した場合はふたりともお金をもらうことができないというものです。

 

互いに合理的であれば、999円を取得し、1円を渡すのが正解となります。

しかし、あまりに不公平な金額を提示すると、相手に拒否されることが多かったのです。

実験では、提案者は平均で30~40%程度を相手に渡す提案を行いました。

 

ルールを追加して、受け取る側が、提案者に対し不満などを伝える機会を設けた場合は、不公平な提案でも拒否されにくくなりました。

最初のルールでは、相手に不公平感についての不満を伝える事ができなかったため、損をしてでも受け取りを拒否することで不満を伝えたかったのだと考えられます。

不満を伝えるために、損をしてでも受け取りを拒否するという選択を行っているのです。

 

7.囚人のジレンマ

囚人のジレンマという有名な実験があります。

 

ある事件の容疑者としてA、Bの2名が容疑者として逮捕されています。

容疑者には自白か黙秘かの選択肢が与えられます。

自分が自白して、相手が黙秘した場合、自分は無罪となります。逆に、自分が黙秘して、相手が自白した場合は懲役8年となります。

2人共黙秘した場合はどちらも懲役1年、2人共自白した場合はどちらも懲役5年となります。

 

お互いに黙秘するのが最も良い判断に思えますが、合理的に考えると自白を選択するのが正解となります。

合理的な推論の結果、「最悪ではないが悪い選択肢」を選ぶことになってしまうのです。

 

しかし、人は完全に合理的な存在ではありません。

実際には多くの人が黙秘を選択します。

ときには、合理的でないからこそ、互いにとって最善の選択をすることができるのです。 

 

私の場合は、どれだけ自白を強要されたとしても、コミュ障なので黙秘することになります。