【ためになる話】「大学に進学する必要はあるか?」
近年、日本の学生が大学などに進学する割合は、男女とも50%を超え続けています。
将来のことをよく考えず、みんながそうしているからという理由で、なんとなく大学進学を選択する人も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、「誰もが大学に進学する必要はあるのか」について考えたいと思います。
1.高額な学費と機会費用
少子化の影響により、定員割れの大学が増え、学力的にはほとんど誰もがどこかしらの大学に進学可能な環境であるといえます。
とはいえ、学費の安い国公立大学に進学できるの人は限られています。
私立大に進学するとなると、年間100万円を超える学費を払い続けることになります。
果たして、大学を卒業することで、この高額な学費を回収するリターンが得られるのでしょうか。
さらに言えば、高卒で就職した場合、毎月の給与が発生します。
大学生でもバイトで稼ぐことはできますが、バイトに使える時間は限られます。
大学を卒業するまでに費やした時間で稼げたはずのお金のことを、「機会費用」といいます。
大学に進学しなかった場合に年収300万円で働くことができたとすれば、1年間の機会費用は300万円となります。
たとえば、学費の総額が600万円の大学に進学した場合と、高卒で就職し、年収300万円で働いた場合を比較すると、4年間で1,800万円もの差が生じます。
大学での勉強に1,800万円もの価値を見いだせる人は、それほど多くないのではないでしょうか。
2.生涯賃金
大学に進学することで、この1,800万円の差を覆せることを証明できれば、進学する意味は大いにあると言えます。
そこで、人生を通して稼げるお金額の差について調べてみましょう。
生涯で稼げるお金のことを、「生涯賃金」といいます。
2019年の厚生労働省の推計では、男性の場合、高校卒で2億5千万円、大学・大学院卒では3億3千万円となります。
なお、この金額は退職金や、退職後に継続雇用で働いた場合の収入も含まれています。
女性の生涯賃金は、男性より低くなっていますが、学歴に応じた関係は男性の場合と同様です。
この数値を見ると、男性の場合、生涯賃金に8,000万円の差が生じます。
1,800万円の差額は余裕で回収できます。
つまり、金銭的な損得で考えると、大学には進学すべきだということになります。
ただし、大学での勉強によって能力が向上することで、稼げる人材に育ったとは言い切れません。
大卒という経歴が、稼げるポジションに就く要因になったのだと考えることもできます。
また、この数値だけで結論づけるべきではありません。この理屈には、次のような落とし穴があるのです。
3.統計データの落とし穴
これから大学進学を考える人や、今大学に通っている人が知りたいのは、自分が大学を卒業することでどれだけ収入に違いが出てくるかという点です。
一方、厚生労働省の推計は、これまでに大学を卒業して働いた人たちの実績です。
今後の生涯賃金について保証するものではありません。
かつて大学に進学する人の割合は現在よりも少なく、1980年代は25%程度でした。
限られた人しか大学には進学できなかったのです。
つまり、かつては優秀な人材だけが大学に進学していたため、その人達の年収が高くなるのは当たり前とも考えられます。
逆に、誰でも大学に進学できるようになると、この優位性が崩れてしまいます。
今までは大卒がある程度限られた人間だったから価値があったのに、大卒が増えることで価値が低くなる可能性があるのです。
それでは、大学に進学する必要はないのでしょうか。
それは違うと思います。
確かに、大卒が増えれば、大卒である優位性は失われます。
大卒であることが、選ばれる理由にならないのです。
しかし一方で、大卒が当たり前になると、大学に進学できなかった人の価値は、さらに低く見積もられます。
「誰でも行ける大学に行けなかった」というマイナス評価につながるのです。
大卒ではないことが選ばれない理由になってしまうのです。
たとえ優秀な人材であっても、大卒ではないことで書類審査に落ちてしまえば、稼げるポジションに就ける確率は低くなります。
以上、金銭的なプラスマイナスを考えると、大学には進学しておいたほうが良いと思います。
もちろん、例外は存在します。
大学に進学してもうまくいかない人もいれば、進学せずとも成功を収める人はいます。
しかし、統計的に考えると、多くの場合は大学進学により生涯賃金が増加する可能性は高いのです。
4.学ぶことの価値
それでは、大学進学の目的は、大卒という経歴を身につけることだけになるのでしょうか。
その場合、大学では真面目に勉強する必要はなく、要領よく単位だけ取れれば良いということになります。
私は、そうは考えていません。
確かに、勉強にはあまり力を入れずに、他の活動に注力するというのもひとつの選択肢だとは思います。
大学で勉強したことなど役に立たないと言い切る社会人もいます。
しかしそれは、その社会人がその程度の仕事しかしていないだけなのです。
そのような人は、まずは頭を使う仕事に就く努力をすべきです。
身体を動かして作業する仕事というのは、事業の最下層です。
特別な技術がなければできない作業もありますが、大半は誰にでもできる作業です。
アスリートのように、身体を使って特別なパフォーマンスを発揮することが求められるのは、ごく一部の職業だけです。
多くの場合、重要な仕事ほど、頭を使うことが求められます。
頭を使う=勉強するということではありませんが、社会人として活躍するために、勉強する力は必須です。
大学で身につけた知識そのものは役に立たないかもしれません。
しかし、学問を追求することで身につけた、「学ぶ力」は一生涯活用することができます。
「学ぶ力」は、勉強以外で身につけることも可能です。
バイトやサークル活動でも、頭を使って行動することで、この力を鍛えることができます。
しかし、わざわざ学費を払って大学に通っているのだから、やはり勉強することで「学ぶ力」を身につけるのが効率的かと思います。
バイトでやっていることは、社会人になってから嫌でも経験することになります。
ただし、人には向き不向きがあるので、誰にとってでも勉強することが正解であるとは言い切れません。
それでも、必ず、頭を使って行動するようにしてください。
5.頭を使うということ
では、頭を使って行動するとはどういうことでしょうか。
それは常に、仕事の問題点や改善方法を考えながら仕事をすることです。
「この作業は、この部分で間違いが起こりやすいかもしれない」
「この間違いが起こると、こんなリスクが生じるかもしれない」
「もっとこうした方が、効率が良いのではないか」
「こうすれば、このリスクは解消できるのではないか」
バイトや新入社員には、大きな裁量権が与えられにくいため、実際には行動に移すのは難しいかもしれません。
しかし、考えることは決してやめないでください。
まずは、自分が行っている作業の中で頭を使い、やがて同じグループの仕事、会社全体の仕事、社会全体の動きにまで、思考を広げていくことが大切です。
人間は、頭を使って進化してきました。
そして、その能力は急激に向上しました。
誰しもが、高性能な脳を持って生まれてきたのですから、十分に活用していきましょう。
そのための準備として、大学でしっかり頭を使うことをおすすめします。